望遠鏡を手に入れた。昔買ったけど使ってないという人に頼んで借りたのだ。今の部屋は一応最上階なので、ベランダから夜空がよく見える。望遠鏡があればいいのにな。そう思っていたところだった。望遠鏡、あぁ、望遠鏡。子どもの頃からどれだけ君に憧れていたことか。
望遠鏡といえば、たいへん高価な代物だった。その昔、大阪の下町の小学校でそんな物を持っているのは、ごくわずかだった。少なくとも、友達の中に望遠鏡を持っている奴などいなかった。親に頼んだところで当然買ってもらえるわけもなく、頼むことすらしなかった。
もしもあの頃望遠鏡を手に入れていたなら、天体観測にはじまり、物理学、量子力学の道へと進み、今頃はスーパーカミオカンデあたりでニュートリノを研究している学者になっていたかもしれないのに。こんなどうしようもない40歳間近のおっさんになってから出会うなんて。
それでも嬉しい。これからは君の手を借りて、夜空を見ることができるんだから。とはいっても、東京では月くらいしかまともに見えないだろうけど。でもいいんだ。雲のない夜は、風呂上がりにビール片手に月を眺めよう。漆黒の闇に光る星を見つけよう。もしかしたら、流れ星だって見られるかもしれない。

えーと、夜空を見るだけなので、くれぐれも。